平成12年度重要判例解説用資料

(冒頭の+印は渉外判例研究会で報告済み又はその予定)

平成10年(その3)

- 大阪高判平成一〇・一・二〇(判タ一〇一九号一七七頁)

カリフォルニアでの自損事故につき、日本人同乗者から日本人運転者に対する損害賠償をカリフォルニア州法に基づき肯定。

+ 東京地判平成一〇・七・一六(判タ一〇四六号二七〇頁)(2001/7/7渉外・駒田)

 昭和一五年に満州国で日本兵に夫を殺害されたとする妻からの日本国に対する損害賠償請求について、法例一一条三項により累積適用される日本民法七二四条により除斥期間の経過による請求権の消滅を理由にこれを棄却した事例。

- 東京地判平成一〇・一一・二〇(知的裁集三〇巻四号八四一頁)

 スイス在住のフランス人振付師から日本法人に対して提起された、日本でのバレエ作品の上演が上映権侵害・著作者人格権侵害に当たることを理由とする損害賠償等請求訴訟。

+ 東京地判平成一〇・一一・二七(判タ一〇三七号二三五頁)(2003-01-11田中美穂)

アメリカでアメリカ在住の日本人に訴えられた日本人が、日本でした債務不存在確認請求事件。一部につき管轄肯定の中間判決。残りの請求については却下。消極的確認訴訟でも不法行為地の国際裁判管轄を肯定。客観的併合による管轄は制限的に(関連性必要)に適用。旧231条適用。

平成11年(その2)

+ 東京地判平成一一・一・二八(判タ一〇四六号二七三頁)

 国際二重起訴を理由として訴えを却下した事例。

- 東京地判平成一一・一・二九(未搭載)

コンピュータ・ソフトウェアの開発をめぐり、アイスランド法人から日本法人に対してソースコードの開示の対価を支払わないことを理由とする損害賠償請求を認めた事例。日本での交渉の末、離日前日、ホテルの用紙に手書きをした覚書であっても、覚書作成に至る経緯、作成の状況、作成後の両当事者間の交渉状況及び双方の認識等に照らせば、契約は成立したと判断。「一般に契約は当事者の意思の合致があれば成立するものであり、その合致について特別の様式を必要とするものでないことはいうまでもないから」と判示しているが、準拠法についての判示はない。

- 大阪地判平成一一・二・二四(判タ一〇一九号一三四頁)

 昭和二五年一二月六日通達発出前に朝鮮人父から認知を受けた内地人母の非嫡出子は平和条約発効により日本国籍を失うとした事例。

- 横浜地判平成一一・三・三〇(判時一六九六号一二〇頁、平成12年度重要判例解説(織田有基子))

韓国離婚判決を承認した事例。

- 横浜地判平成一一・八・二五(判時一七〇七号一四六頁、判タ一〇五三号二六六頁)

 ニューヨーク条約により中国の仲裁判断を執行した事例。

- 東京高判平成一一・八・三〇(判示一七〇四号五四頁)

 韓国併合・元従軍慰安婦訴訟。立法不作為。

- 福岡高判平成一一・一〇・一(判タ一〇一九号一五五頁)

旧三菱重工長崎造船所徴用工訴訟。

- 静岡地浜松支判平成一一・一〇・一二(判時一七一八号九二頁、判タ一〇四五号二一六頁)

 来店したブラジル人に対して「外国人入店お断り」という張り紙を示し、警察官を呼ぶなどして追い出そうとした店主の不法行為責任が肯定された事例

- 東京地判平成一一・一〇・一三(判時一七一九号九四頁)

  アメリカから日本への運送途中に紛失した貨物について、荷受人の保険会社(日本法人)から実行運送人(アメリカの航空会社)に対する保険代位による損害賠償請求について、実行運送人であっても、契約運送人との契約と実質的に同一の内容の契約が接着して締結されており、当事者間においては旧ワルソー条約一条三項前段において想定されているのと同様に利用運送契約と実行運送契約とを単一のものとして取り扱う意思があったものと評し得るという特段の事情があるので、本件における被告(実行運送人)は同条約二二条二項所定の責任制限を享受することができる。なお、まず準拠法を定め、その準拠法所属国が条約締約国であるときにはその国における条約解釈に従うべきだとの被告の主張については、条約前文・二一条・二五条一項・三二条本文を引用し、条約の趣旨、全体的な規定内容等に照らせば、直接適用されるとし、アメリカにおける解釈は参考にはなりうるとしても、準拠法として適用されるわけではないと判示。

+ 東京家審平成一一・一〇・一五(家月五二巻三号六〇頁)(北澤・02/6渉判報告)

 日本に住所を有していたニュージーランド人の「日本国内の不動産及び銀行債務」の相続について、同国国際私法によれば不動産については所在地法、その他の財産については被相続人の住所地法によるので反致が成立するとし、日本法によって限定承認の申述を受理した事例。

- 東京地判平成一一・一〇・二七(判時一七〇六号一四六頁、判タ一〇三二号一七二頁)

 日本での強姦及びセクシャル・ハラスメントを理由として、加害者である外国銀行東京支店長とその銀行に対する賠償責任が肯定された事例。準拠法の判断なし。

+ 水戸地竜ヶ崎支判平成一一・一〇・二九(判タ一〇三四号二七〇頁) )(渉外2001/7/7:釜谷)

 アメリカ・ハワイ地区連邦地裁のした懈怠判決の執行を認めた事例。

+ 東京地判平成一一・一一・四(判タ一〇二三号二六七頁)(渉外2001/7/7:織田)

 日本在住日本人からアメリカ在住日本人に対する離婚訴訟の管轄を肯定。

+ 山形地酒田支判平成一一・一一・一一(金商一一〇六号四七頁)(森下・渉外00/12)(大武泰南・金商1106号62頁、早川吉尚・平成12年度重判解説)

  ベルギーの証券決済システム運営会社との間でその保管振替システムに参加する契約を締結し、そのシステムを利用して外国証券取引を行っていた日本の証券会社Yに対してその証券会社の顧客X(日本在住の日本人)が提起した預託金返還請求事件。Yは保有する証券をベルギー法に基づきシステム運営者に寄託し、寄託されている同一銘柄の証券全体に対して保有数量に応じた権利を有するものとされ(同種同量の証券の返還を受ける権利を有する)(本件で問題となったワラントを表章する証券はベルギーで保管されていると認定されている)、参加者間の権利移転等の決済は参加者の口座間の振替によって行うこととされていたところ、XはYとの契約でその保有する証券をYに寄託し、これをYがシステム運営者に再寄託するという方法でこのシステムに参加し、ワラント取引を行ったが、多額の損失を被った。そこで、売買契約の目的物がそもそも不存在であって、契約が無効である等の主張をした。裁判所は、売買契約の準拠法も、不当利得返還請求の準拠法もともに日本法であるとした上で、本件取引は、混蔵寄託されている証券について占有改定による共有持分の移転が行われているので、目的物不存在とのXの主張は失当と判断(しかし、この物権法的処理の準拠法には触れていない)。

- 名古屋高金沢支判平成一一・一一・一五(判時一七〇九号五七頁―)

約二年数ヶ月日本に滞在した中国人研修生の労災事件。逸失利益は日本で得られる年収を基礎として算定。

(一審の富山地高岡支判平成一〇・七・一四は判時一七〇九号六一頁に掲載)

+ 名古屋地判平成一一・一一・二四(判時一七二八号五八頁、判タ1068号234頁)(渉判2001/3/10高杉)

 日本居住の日本人から米国居住の米国人に対する離婚請求訴訟につき、財産事件の国際裁判管轄についての判断枠組みをそのまま採用し、人訴法1条1項参照として、原告の住所地でありかつ婚姻共同生活地であった日本には、特段の事情のない限り管轄があるとして、これを肯定。親権者指定の申立については、離婚事件の管轄のある国と子の住所地国の双方に管轄ありとし、オレゴン州の離婚及び親権者指定判決について、離婚の部分は管轄がないので承認を否定し、親権者指定の部分は承認し、日本での親権者指定の申立は却下。離婚請求については、法例16条但書により日本法を適用して認容。

 

平成12年(その1)

(+ 最判平成一二・一・二七(民集五四巻一号一頁、家月五二巻六号三九頁、判時一七〇二号六一頁、判タ一〇二四号一七二頁)(平成11年度重判解説国際私法1・大村)(先決問題、法例17条、18条の適用順序、継母子関係成立の準拠法など)(平成11年度リストに掲載済み))

(+ 東京高判平成一二・一・二七(判タ一〇二七号二九六頁)(平成11年度重判解説国際私法2・斎藤、井関涼子・知財管理五〇巻一〇号一五五九頁、木棚・AIPPI45巻5号27頁)(竹下:渉外00/3/11)(アメリカ特許法違反に基づく日本での行為の差止等請求事件)(平成11年度リストに掲載済み)

- 東京地判平成一二・一・二八(判時一七一六号八九頁、判タ一〇三四号一六〇頁)

 アメリカにおける語学研修中にベッドから転落して負傷した者による研修主宰者に対する損害賠償請求が肯定された事例。

+ 東京高判平成一二・二・三(判時一七〇九号四三頁・金商一〇九〇号四六頁)(00/9/30:森田博志)(横溝・判評50256(判時1725234)平成12年度重要判例解説(楢崎))

ドイツで登録されイタリアで盗まれ、日本に持ち込まれた自動車(転々譲渡)を保険代位により取得したドイツの保険会社による日本人占有者に対する自動車引渡等請求事件。自動車は移動を予定した動産であるので、本来の使用本拠地である復帰地(登録地)への復帰が事実上消滅していない限り、その物権関係は登録地法によるとし、本件では復帰の可能性が消滅していないので、イタリアにおいて所有権移転があったか否かについてはドイツ法による。日本における売買により権利移転がなされたか否かについて日本法によるとしても、高額自動車について国際的窃盗団が横行していること等から未登録の輸入中古車については車体番号等の偽造等につき注意義務があり、無過失とはいえない。そして、業者が登録した以降は即時取得の生ずる余地はない。

なお、一審の浦和地判平成一一・二・二二も判時一七〇九号四九頁に掲載。一審判決では、少なくとも日本におけるある段階の譲受人が所在地法である日本法上善意取得したことを認め、請求を棄却していた。

- 東京高判平成一二・二・一五(金商一一〇二号一八頁・判タ一〇八六号二三五頁)

 外国法人(ロシア法人)を原告とする損害賠償請求訴訟(本訴)と、被告の日本法人からの不当訴訟を理由とする反訴。本訴を退け、反訴を一部認容。準拠法についての判断なし。

- 東京高判平成一二・三・一六(未搭載)

円谷プロダクションによる著作権確認等の訴えを却下した事例。不法行為地管轄を認めるのは、管轄の決定に必要な範囲で一応の証拠調べをし、不法行為の存在が一定以上の確度をもって認められる必要があるとし、証拠によれば、控訴人である日本法人が被控訴人であるタイ人に対して本件著作物の独占利用の許諾をしたものと認められ、被控訴人が香港の法律事務所を通じて第三者に対して警告状を送付したことは不法行為にあたらず、不法行為の存在を前提とする管轄を肯定することはできない。日本における著作権の所在地が日本であることは権利の性質上明らかであり、日本における著作権を被控訴人が有しないことの確認を求める訴えについては財産所在地管轄を肯定できるが、被控訴人との間では日本における著作権について確認の利益を欠くので、訴え却下は免れない。そして、却下を免れない請求に基づき他の請求につき併合請求による管轄を認めることはできない。控訴人がタイ国における著作権を有することの確認については、財産所在地はタイであるので、管轄を欠く。そして、念のために検討するに、仮に何らかの管轄原因が認められるとしても、被控訴人は権利保護の法的手段が保証され、現にタイで訴訟をしているのであるから、日本に事務所等がなく、営業活動もしていない被控訴人に日本での応訴の負担を負わせることは過大な負担というべきであり、管轄を否定すべき特段の事情がある。

- 東京高判平成一二・二・二一(未搭載)

東京地判平成一一・一・二九の控訴審判決。拘束力ある契約をするとの意思なしとして原判決を破棄し、請求棄却。

- 東京地判平成一二・四・二八(判時1743号142頁)

アメリカの航空会社(デラウエア州法人)の客室乗務員として試用期間中に退職届けの作成を強要させられて退職させられたと主張する日本在住の日本人からの地位確認・賃金支払請求事件。雇用契約中の、イリノイ州の裁判所を指定した専属管轄合意条項を有効と認め、訴えを却下。最判昭和五〇・一一・二八(民集二九巻一〇号一五五四頁)によりつつ、ただし、「はなはだしく不合理で公序法に違反するときは無効となる余地がある」として検討したが、そのような例外には当たらないと判示。

+ 東京高判平成一二・七・一二(判時一七二九号四五頁)(大村芳昭氏:予約)(鳥居淳子・判例評論509号49頁(判時1746号227頁))

離婚の際の財産分与を認めない中華民国法の適用を排除した事例。

- 東京高判平成一二・九・一四(判時一七三七号一三三頁)

 国際海上物品運送法の適用。

- 東京地判平成一二・九・二九(判タ一〇四五号二七六頁、判時1733号108頁)

アメリカで期間満了により消滅した著作権について、日米条約等を前提として、日本法上は保護期間内にあるとした事例。

- 仙台高判平成一二・一〇・四(金商一一〇六号四七頁、平成12年度重要判例解説(早川吉尚))

 ユーロクリアの証券決済システムに登録された権利の性質決定。山形地酒井支判平成11・11・11(金商1098号45頁)の控訴審判決。

- 東京地判平成一二・一〇・一二(判タ一〇五一号三〇六頁)

 国際海上物品運送法の適用事例。

- 浦和家審平成一二・一〇・二〇(家月五三巻三号九三頁)

 ドイツ在住の申立人と日本在住の事件本人との面接交渉。準拠法の判断なし。

- 神戸地判平成一二・一一・二七(法律新聞一四三五号六頁)(現物未読)

満州国の郵便貯金の払い戻しを拒否したことは不当として国家賠償請求。満州国の郵便貯金の日本での払い戻しを認めた日満間の条約は失効しているので、払い戻し拒否は正当として請求棄却。

- 東京高判平成一二・一一・二八(判時1743号136頁、労働判例815号77頁、平成12年度重要判例解説(陳一))

東京地判平成一二・四・二八の控訴審判決。控訴棄却。公序法に反して管轄合意の効力が否定される場合がありうることは認めるが、本件ではそのような場合には当たらないと判示。

+ 東京地判平成一二・一一・三〇(判時一七四〇号五四頁)(渉外・元永、平成12年度重要判例解説(道垣内))

主権免除について制限主義を採用し、ナウル共和国金融公社及びナウル共和国に円建債の償還等を命じた事件。東京地裁への合意管轄条項及び主権免除の放棄条項あり。

- 東京高判平成一二・一二・六(法律新聞一四三六号一一頁、判時1744号48頁)

元従軍慰安婦からの国家賠償請求事件。国家無答責により請求棄却。仮に請求権が認められるとしても時効消滅。

特にフィリピン法に基づく請求について、本件加害行為は「国家の権力的作用に付随するきわめて公法的色彩の強い行為である。このような行為は国家主権と密接な関係を有しているから、特定の国家法を超越した国際市民社会の共通法ないし普遍法としての国際私法の規律にかからしめるには無理があり、国際法の規律ないし国家の意思にかからしめるべき事柄というべきである」こと等から、「国際私法の適用があるとすることは多大の疑問があるといわなければならない」とした。

 

判時 1695-1740(1722を除く)

判タ 1015-1053

金融商事判例(1014-1023、1038/1039を除く)1080-1104

金融法務事情(1389,1479-1480、1511-1518を除く)1547-1596

家月 52/1-53/3

最判 54/1/-

行政事件裁判例集 48/5・6-48/12

労働判例 46/3-

知的裁集 30/2-30/4

労働関係事件民事裁判例集 48/4-

高等裁判所裁判例集 51/3-52/12

東京高裁判決時報49/1-49/12